低価格なデジタル温度計 TM-902Cを使い、半田ごての温度を測定しました。もう一つ熱電対をつけて、熱起電力を測定しました。
結果:
TM-902Cの表示温度[℃] | 電圧計の表示電圧[mV] |
26.5 | 1.0 |
50 | 1.9 |
102 | 4.3 |
150 | 6.6 |
Fig. 温度と熱起電力 (実測値)
実測値を、熱起電力表(K-Type)と比較してみます。
熱起電力表(K-Type)の温度[℃] | 熱起電力[mV] |
25 | 1.000 |
50 | 2.023 |
100 | 4.096 |
150 | 6.138 |
Fig. 温度と熱起電力 (熱起電力表 K-Typeより)
100℃以下では、ほぼ良い結果だと思います。より正確には、TM-902Cの精度、デジタルマルチメータの精度、熱電対の温度許容差、測定環境(氷水の温度等)を考慮する必要があります。
・TM-902C
デジタル温度計(TM-902C)の精度は、0~500℃で±(0.75℃+1℃)と説明書に記載されていました。ケースを開けて基板を見ました。専用チップ(黒い樹脂で覆われている部分)で計測から表示まで行っているようです。周囲温度を測定するRTD(測温抵抗体)やサーミスタがあるのか分かりません。専用チップ内部で周囲温度を測定して冷接点補償をしている可能性もあります。
・デジタルマルチメータ
デジタルマルチメータ(CD772 三和電気計器製)で電圧を測定しました。取扱説明書の「8-2 測定範囲および確度」に、レンジ 400.0 mVの場合、確度は±(0.5% rdg + 2dgt) となっています。rdg(reading)は読み取り値で、dgt(digit)は 最終桁のカウント数です。
例えば、rdg(表示値)が1.9mVならば、確度は±(0.5% x 1.9 + 0.2 )= ±( (0.5/100)*1.9+0.2) = ±( 0.95/100 + 0.2 ) = ±( 0.0095 + 0.2) = ± 0.2095[mV] 、真値は1.9±0.2095[mV] で、1.6905~ 2.1095 [mV]の範囲となります。
・測定環境
氷水の温度が0℃にならない時もあります。実測の150℃では、熱起電力表の電圧と実測値に差があります。これは氷水の温度が0℃以下になり、150℃以上の熱起電力が発生したと推察されます。
・熱電対
熱電対は、線の両端の温度差を微小電圧に変換するセンサです。温度差が50℃で、K型熱電対の場合、発生する電圧はわずか2mVの電圧です。
センサ自体の測定誤差(許容差)は±1.5℃(または±2.5℃)となっています(熱電対のクラスによる)。(JIS C1602:2015 6 許容差より )
・冷接点(基準接点)補償
熱電対の両端に温度差がない場合、熱起電力は発生しません。例えばデジタル温度計が置かれている場所を熱電対で測定すると、熱起電力は0[mV]となり0[℃]となります。このため温度計の端子周辺温度を測定します。この端子周辺温度に、熱起電力による温度を加算した値を測定対象物の温度として表示します。冷接点(基準接点)補償と呼ばれています。
デジタル温度計の端子周辺温度(室温)は、サーミスタまたは測温抵抗体(RTD Pt100Ω)により得られます。端子周辺温度が、測定対象の温度測定に与える影響を考えてみます。
仮に、端子周辺温度のセンサが故障して室温が変化しても、25℃の固定値であるとします。測定対象の温度は、常に100℃とします。
端子周辺温度(室温)が25℃の場合は、
温度計表示値 = (対象物の温度 – 実際の端子周辺温度)により発生する熱起電力からの温度+ 固定値(25℃ )= (100-25) + 25
= 100 ℃ となり。表示は測定対象の温度と一致します。
しかし、室温=15℃の時に、測定すると、
温度計表示値 = (100-15) + 25℃ = 85 + 25
= 110 ℃ となり。温度計の表示値は、10℃高い温度を表示します。。
室温=35℃では、
温度計表示値 = (100-35) + 25℃ = 65 + 25
= 90 ℃ となり。温度計の表示値は、10℃ 低い温度となります。
このように端子周辺温度は、測定対象の温度測定の精度に影響を与えます。
・補足
熱電対は、秋月電子からの購入品を使用しました。
半田ごては、温度調節器付きです。温度を最低温度にして、電源ONからOFFで冷めていく状態での温度と電圧を測定しました。